宝塚市歯科医師会

第1回市民歯の健康講座「健康とお口の病気を考える」

宝塚市歯科医師会 第1回市民健康講座で健康と口腔疾患についてお話しをさせていただきました。歯科からの情報提供としては、「虫歯と歯周疾患の予防」と「誤嚥性肺炎と口腔ケア」が中心ですので、今回は「加齢と健康を食の観点から考える」ことに焦点をあてて、お話をさせていただきました。

(1)健康と健康寿命
 健康の指標として平均寿命と健康寿命が説明されますが、どういう意味があるのでしょうか。平均寿命は現在のところ世界第2位ですが、少しずつ延伸しています。これを別の表現であらわすと、1947年生まれの人が90歳まで生きる可能性は男で0.9%, 女で2.0% であるのですが、2016年生まれの人では男で25.6%, 女で49.9%ということになります。健康寿命は世界第1位で、平均寿命より大体9~10年短い状況です。病気の有無にかかわらず意欲的に自立して社会生活を送っていける年月をさらに長くしていくことが大きな目標です。そのために障害となっている因子を取り除かなければなりません。様々な取り組みが研究され、実践されていますが、まとめると以下のようになります。
①脳を健康にして認知症を予防する
②身体を元気にするために骨格筋を鍛える
③癌を予防して内臓を元気にする
 それを支えるのが「楽しい食事」と「正しい睡眠」ということになります。平成28年度の国民生活基礎調査(厚生労働省)では、要介護となる原因が認知症、脳血管疾患、老衰、骨折の順になり、認知症の予防が最も緊急で重要な課題となっていることが明らかになりました。認知症は生活習慣を悪化させ、身体能力を低下させる大きな原因であるわけです。新オレンジプランはそのための柱となるもので、歯科関係からの積極的な参加が求められています。

(2)誤嚥性肺炎予防の視点
 要介護の状態が進行しますと、誤嚥性肺炎の危険性が大きくなります。寺本信嗣先生(呼吸器内科)の研究によると、誤嚥性肺炎の全肺炎に占める割合は、70歳を超えると60%以上となり、80歳を超えると80%以上となります。口腔ケアが重要な役割を担うことは広く認識されていますが、認知症の改善を基本にしつつ、食事力を向上させることが死因第3位の肺炎を減らしていく有効な手段であるからです。ここで、口腔ケアを担う歯科関係者が今一度認識しておくべきことがあります。それは以下の2点に集約されます。
①食事力は骨格筋の強化によって向上する
咀嚼筋群、咽頭筋群、食道の上1/3、外肛門筋は骨格筋ですから、すべて連動しているということです。したがって、体を動かすこと、歩くこと、手の作業を行うこと、おしゃべりをすること、歌をうたうことなどすべてが食事力の向上に連動します。口腔ケアは、それらを総括する概念であるということです。
②義歯の清掃管理を忘れずに
義歯は多種類の細菌によって汚染されています。咽頭・呼吸器感染症、尿路感染症、髄膜炎の原因となる細菌群と口腔カンジダ菌の原因となる真菌です。これらは院内感染の原因ともなりますので、病院の入院患者さんや要介護福祉施設の入所者の口腔ケアでは対策が必要です。今回は、フィトンチッド義歯洗浄液について紹介しました。

(3)歯は臓器であること
 フレイルという概念の説明と、歯もその対象であることを示しました。血液循環、自律神経によるコントロール、免疫細胞の存在、腫瘍の発生を症例や研究資料を提示して説明しました。各臓器の体内時計や気象病の発症から、フレイル対策を考えることが大切で、歯もその一環であることを認識しておく必要があります。

(4)口腔疾患の提示
 転倒による口腔と顔面の外傷、唾液腺疾患による口腔乾燥、カンジダ性口内炎、などを紹介しました。口腔領域の疾患が食事力に大きな影響を及ぼすことを紹介しました。

 1時間という時間制約のなかで、参加していただいた市民の皆様に少しでも楽しんでいただけるように心がけました。どのように受け止めていただけたでしょうか。
(宝塚市歯科医師会会員 駒井正)

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